擁壁は、土地の安全性を守るために設置される重要な構造物です。しかし、長年の使用や自然の影響により、擁壁には劣化や損傷が生じることがあります。そこで重要になるのが、定期的な「擁壁調査」です。本記事では、擁壁調査の概要やその重要性、調査にかかる費用目安などについて詳しく解説していきます。
擁壁とは?
そもそも擁壁とはどのようなものなのでしょうか。以下より詳しく見ていきましょう。
擁壁の基本的な役割と構造
擁壁とは、高低差のある土地の斜面を安定させるために設けられる工作物で、主にがけ崩れを防ぐ役割があります。このため、擁壁は安全な住居環境を確保する上で非常に重要な構造物です。
擁壁はその構造に応じて、鉄筋コンクリートや石積みなど、さまざまな素材と工法が用いられますが、いずれも重要なのは、長期にわたり土や水の圧力に耐えられるよう設計されていることです。
また、擁壁の表面には、排水機能を持たせるための水抜き穴が設けられることが一般的になります。
土留めとの違い
土留めも擁壁と同様に斜面を安定させるための構造物ですが、役割や構造にいくつかの違いがあります。土留めは、主に比較的小さな高さの盛土や傾斜地を固定する目的で使用され、擁壁ほどの大きな力に耐えることを想定していません。
そのため、土留めは軽微な構造であることが多く、一時的な造成工事や庭園づくりなどで使用されることが一般的です。対照的に、擁壁は高い耐久性が求められるため、より堅牢な材質と工法が必要とされています。
擁壁調査では、これらの違いによる影響を考慮した法令遵守の確認や実地点検が行われ、安全性の確保が図られます。
擁壁の種類とそれぞれの耐用年数
擁壁は、多様な構造・材料で作られ、それぞれに異なる耐用年数があります。各種擁壁の特性を理解することは、安全な住環境づくりにおいて重要です。ここでは、代表的な擁壁の種類とその耐用年数について詳しく説明します。
RC擁壁(鉄筋コンクリート擁壁)
RC擁壁は、鉄筋とコンクリートを組み合わせて作られる耐久性の高い擁壁です。優れた強度を持ち、耐用年数は約30〜50年といわれています。長期間にわたり安定した性能を発揮するため、地震対策が重要な地域で多く使用されています。
PC擁壁
PC擁壁は、プレキャストコンクリートを用いた擁壁で、工場生産されたブロックを現地で組み立てます。高い品質管理のもとで製造されるため、耐用年数はRC擁壁と同等の約30〜50年が期待されます。また、施工の短期間化が可能で、コストパフォーマンスに優れている点も特徴です。
CP型枠擁壁
CP型枠擁壁は、コンクリートパネルを型枠として使用し、その内側にコンクリートを打設する方法で作られる擁壁です。高い施工精度とバリエーション豊かなデザインが可能で、耐用年数もRC擁壁に近く、約20年〜50年が目安になります。
RC擁壁(現場打ち)
現場打ちRC擁壁は、現地で鉄筋を組み型枠を設置し、コンクリートを打設する方法で施工されます。敷地条件に応じた自由な設計が可能ですが、施工には時間と手間がかかるのが特徴です。しかし、質の良い施工が行われれば、耐用年数は50年以上が期待できる優れた性質を持ちます。
練積み造擁壁
練積み造擁壁は自然石や煉瓦などをモルタルで積み上げて作られる擁壁で、見た目の美しさが特徴です。しかし、鉄筋コンクリートに比べるとやや耐久性に劣ることから、定期的なメンテナンスが必要になります。耐用年数目安は約20年〜40年です。
大谷石積み擁壁
大谷石積み擁壁は、大谷石という軽量で加工のしやすい石材を用いて積み上げた擁壁です。自然な風合いを持つため、景観に溶け込むデザインが魅力で、昭和時代の建造物にもよく使用されています。大谷石積み擁壁は、耐久性を高めるためには適切な処理と管理が求められるので、一般的な耐用年数は約20〜30年とされています。
間知石・間知ブロック擁壁
間知石・間知ブロック擁壁は、規格化された石やコンクリートブロックを用いて積み上げる擁壁です。軽量かつ低価格なことから、石垣にもよく使用されています。耐用年数は、約40年と見込まれていますが、定期的な点検とメンテナンスが長寿命化には不可欠です。
空積み造擁壁
空積み造擁壁は、天然石や煉瓦をモルタルを使わずに積み上げるため、透水性が高く、自然災害に対して柔軟に対応できる設計が可能です。しかし、構造上の強度が劣るため、追加の特に補強が求められる場合があります。耐用年数は約20年〜30年とされており、特に地震などの影響を受けやすいです。
擁壁調査の重要性
擁壁の役割は、住宅地や公共施設の安全性確保に深く関連しています。しかし、擁壁は時間とともに劣化し、地震や豪雨などの自然災害によって崩壊する危険性があるため、定期的な擁壁調査が非常に重要です。
特に、古い擁壁や過去に増し積みが行われた擁壁は、安全性が低下している可能性が高いため、適切な調査と維持管理が必要です。
安全性確認の法令と基準
擁壁の安全性を確認するためには、法律および基準に則った調査が必須です。たとえば、2mを超える擁壁を新たに造る場合や改修する場合、建築基準法に基づく確認申請が必要です。
また、宅地造成工事規制区域では、2mを超える擁壁を解体する場合、事前に届出を行う必要があります。これらの法令を遵守しながら擁壁の安全性を確認することが、擁壁に関する事故を未然に防ぐために非常に重要です。
具体的な擁壁調査の手順
擁壁調査では、擁壁が法令に準拠し、安全であることを確認するために、以下のような手順や方法で調査を行います。
宅地造成等規制法・建築基準法遵守の確認
調査の初めとして重要なのが、現在の擁壁が宅地造成等規制法や建築基準法を遵守しているかどうかの確認です。特に2mを超える擁壁に関しては、建築基準法に基づいた確認申請が義務付けられています。
これに加え、宅地造成工事規制区域での擁壁の改築や解体には、関連した届出が必要です。法令遵守の確認によって、擁壁が適切に管理されているかどうかを判断できます。
現地での目視点検
次に行うのが、実際の現地での目視点検です。これは擁壁の状態を直接確認するための重要なステップで、擁壁が風化していないか、土圧や水圧で膨らんでいないかをチェックします。
また、水抜き穴の有無や、擁壁の表面がひび割れていないかも確認し、二段擁壁ではないことを確かめます。必要に応じて、測定器具を用いてより詳細な情報を得るなど、目視調査を通じて安全で頑丈な状態であるかを確認していくのが基本的な流れです。
弊社では擁壁の現地目視調査において、以下の調査を行います
まず、擁壁のひび割れなど、損傷状況を確認する目視点検を実施します。
次に、シュミットハンマーを用いてコンクリート部材の強度を推定します。また、鉄筋探査機を使用して鉄筋位置や被り厚の測定を行い、はつり調査により鉄筋の腐食状況を確認します。
さらに、水抜き孔に詰まりがないかなどの通水状況の確認も行います。
まとめ
擁壁は、土地の斜面を保護するための構造物であり、その健全性が住宅や周辺の安全に直結します。そのため、擁壁調査は、安全な住環境を維持するための重要なプロセスです。住まいの安全性を長く維持するために、定期的な擁壁調査を行いましょう。
弊社でも擁壁点検を行なっております。
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