塗膜調査は、あまり聞きなれない言葉ですが、実は身近な場所で行われている調査です。今回は、その塗膜調査に焦点を当ててみましょう。調査目的や方法とあわせて調査の対象構造物なども解説していくので、気になる人は最後まで目を通してみてください。

塗膜とは

塗膜とは

そもそもの塗膜とは、構造物に塗った塗料が乾燥や硬化して、膜状(層)の状態のことです。構造物の装飾やサビや腐食防止といった保護のために塗料で塗膜を作ります。

塗膜PCBとは

構造物の装飾や保護を目的として作られる塗膜ですが、一部の塗料に加工性や柔軟性を向上させる物質として、人体に有害なPCB(ポリ塩化ビフェニル)が添加されていました。その塗膜に含まれるPCBが、塗膜PCBとよばれるものです。

このPBCは、1960年代半ば〜1970年代半ばまで、塩化ゴム系塗料に使用されていたため、PCBを含む塗料が塗装された構造物の塗膜からは、高濃度のPCBが検出されています。

塗膜調査の目的

塗膜調査の目的

塗膜調査の目的は、対象の構造物のPCBの含有の有無や、塗膜のはがれに劣化などを早期発見し、適切に維持管理を行うことです。適切な維持管理を行うことで、補修時のコスト削減や事故の予防、構造物の寿命を長くすることに繋がります。

PCB廃棄物処分期限や定義

PCB廃棄物処分期限や定義

PCBは、毒性に加えて難分解性で生物濃縮性という特性を持ちます。更に、地球規模での汚染が広がっていることが確認されたため、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」の規制対象物質に指定され、世界規模で2028年(令和10年)までの廃絶が目指されるようになりました。日本では、2027年(令和9年)3月31日を期限に処分が進められています。

PCBの詳しい定義と処分期限は、以下の通りです。

高濃度PCB廃棄物低濃度PCB廃棄物非PCB廃棄物
定義・PCB濃度が5,000mg/kgを超える廃棄物(PCBを使用した電気機器廃棄物など)・PCB含有廃塗膜(100,000mg/kgを超えるもの)・PCB濃度が5,000mg/kg以下の廃棄物(微量PCB汚染廃電気機器など)・PCB含有廃塗膜(100,000mg/kg以下のもの)PCB濃度が0.5mg/kg以下
処理先中間貯蔵・環境安全事業(株)(JESCO)無害化処理認定施設一般的な産業廃棄物と同じ
処理期限【安定器及び汚染物】・西日本:終了・東日本:終了【変圧器・コンデンサー】・西日本:終了・東日本:終了令和9年3月31日なし

塗膜調査の対象となる構造物

塗膜調査の対象となる構造物

塗膜調査の対象は、1966年〜1974年の間に、建設または塗装の塗替えを行った以下のような構造物です。

  • 橋りょう
  • 洞門
  • 石油貯蔵タンク
  • ガスタンク
  • 水門
  • 船舶
  • 排水機場
  • 高速道路
  • 高速道路橋脚
  • 銅製タンク など

対象となる有害物質

対象となる有害物質

塗膜調査の対象となる有害物質はPCBだけではありません。PCB以外の調査対象となる有害物質を解説していきます。

鉛化合物(Pb)・クロム化合物(Cr)などの重金属類

鉛化合物(Pb)・クロム化合物(Cr)などの重金属類は、錆防止や着色顔料として2008年まで使用されていました。しかし、発がん性や貧血症、肝臓病に脳及び神経障害などの影響があるため、塗膜調査の対象物質となっています。含有率が1%を超えるものに対しては、特定化学物質障害予防規則の考慮が必要です。

ポリ塩化ビフェニル(PCB)

塗料の性質を向上させるために添加されたPCB(ポリ塩化ビフェニル)ですが、脂肪に溶けやすい性質を持ちます。慢性的な摂取をしてしまうと、体内に徐々に蓄積し、吹出物や色素沈着といった皮膚症状から、全体の倦怠感やしびれなどさまざまな症状を起こすため、人体に有害な科学物質とされています。

PCBの毒性を世に知らしめた代表的な事件が、昭和43年(1968年)に西日本を中心とした広範囲で健康被害を起こしたカネミ油症事件です。食用油の製造過程で、PCBが混入してしまったため、起こった事件になります。

タール(コールタール)

コールタールは、黒くて粘度の高い液体です。船舶や海洋分野で広く使用されてきましたが、発がん性があるとされています。そのため、含有率が0.5%以上のものに対しては、特定化学物質障害予防規則の考慮が求められます。

塗膜調査の方法

塗膜調査の方法

塗膜調査は、どのように行われるのでしょうか。塗膜調査の方法を解説していきます。

1.採取

まずは塗膜を採取します。

目視採取

目で見て調査を行う方法です。計器による塗膜調査では、一度に面積しか測定できず、目視であれば一度に広い面積を測定できるのがメリットですが、調査員によって個人差が出るのがデメリットでもあります。

剥離剤採取

剥離剤を使用して塗膜の調査を行う方法です。作業時に塗膜くずが飛散しないことがメリットですが、使用する剥離剤の種類によっては剥離するまでに約1日かかる場合があったり、火災の危険性があったりするのがデメリットです。

乾式採取

工具を使用して作業をするため、作業時間が短いのがメリットですが、音が出たり粉塵が発生したりするのがデメリットです。

2.復旧

塗膜を採取した後は、剥離部分から錆びや劣化を防ぐために、復旧作業を行います。復旧作業に使用する材料は、構造物の耐久性や今後の塗り替え作業を想定して選定を行うことが大切です。

3.含有試験

採取した塗膜を専門機関へ持ち込み、分析をします。分析方法や使用する機器によって、正確性に差が出てくることもあるので、専門機関選びも重要です。

4.除去

含有試験の結果を元に、除去を行います。塗膜調査の対象となる有害物質の含有量が基準値以下の場合は、通常施行が可能です。基準値以上の含有量の場合は、定められた方法で適切な処理を行わなければなりません。

まとめ

一般の人には、あまり知られていない塗膜調査ですが、環境を守る・人々の健康を守るための重要な役割をしています。塗膜調査を行い、適切な方法で構造物の補修や塗り替えを行うからこそ、安全性の高い構造物が実現できるのです。

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